機械設計と電気制御の年収相場(九州版)
「設計に移れば、年収って上がるんですよね?」
この質問には、正直に答えると長くなります。短く答えるなら「上がる人と上がらない人がいて、分かれ目は職種名ではない」です。皆さま、求人票の「機械設計 月給32万円〜」という文字列を見て、「〜」の右側がどこまで伸びるのか、考えたことはありますか? 今回は九州エリアの機械設計・電気制御・生産技術の年収相場を、「〜」の右側が何で決まるのかまで含めて解きほぐします。
先にお断りしておくと、本記事の金額はすべて当メディア独自ガイドの目安値であり、統計値ではありません。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」などの公的統計と、求人市場の相場観をもとに当メディアが整理したもので、統計そのものの数値ではありません。個社・個人で大きく変動します。その前提で、地図としてお使いください。
0. 前提 — 「設計」「制御」という言葉の解像度を上げる
まず言葉の整理から。機械設計とひとことで言っても、中身は層になっています。構想設計(何をどう作るかを決める)→基本設計→詳細設計→製図・CADオペレーション。下の層ほど人が多く、上の層ほど希少で高い。「CADが使える」と「構想から任せられる」の間には、年収にして数百万円の距離があります。
電気制御も同じです。PLCのラダーを読める→既存プログラムを改造できる→新規ラインの制御設計を丸ごと組める→安全設計・ロボットティーチングまで見られる。この階段のどこに立っているかが、あなたの値段です。職種名ではなく階段の段の高さで値段が決まる——これが今回の記事の背骨です。「僕が面談でいつも使っている見方」だと思ってください。九州は完成車も装置も現場が近く、この階段を現場から登りやすい土地でもあります。
1. 相場の全体像 — 目安レンジ
その前提で、九州エリアの目安レンジを示します。繰り返しますが、これは統計値ではなく、当メディアが整理した目安です。
| 職域×段階 | 年収の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| CADオペレーター(指示のもと製図) | 330〜430万円 | 派遣比率が高い層。正社員化で安定はするが上限も近い |
| 機械設計(詳細設計を独力で) | 420〜560万円 | 市場のボリュームゾーン。装置・治具設計の需要が厚い |
| 機械設計(構想〜基本設計、後輩指導) | 560〜720万円 | 大手・完成車系ならさらに上振れ |
| 電気制御(PLC改造・デバッグ) | 430〜540万円 | 保全出身者の参入ルートでもある |
| 電気制御(新規ライン制御設計) | 540〜690万円 | 慢性的な人材不足。ロボット対応でさらに加点 |
| 生産技術(工程設計・設備導入) | 480〜680万円 | 設計と現場の橋渡し。半導体・自動車投資で需要増 |
※当メディア独自ガイドの目安値であり、統計値ではありません。厚生労働省「賃金構造基本統計調査」等と求人市場をもとに整理。残業・手当・企業規模により大きく変動します。
ポイントは2つです。1つ、同じ職種名の中に300万円近い幅があること。2つ、電気制御の上段は機械設計の同段より品薄で、値がつきやすいことです。世の中に「機械科出身」は多く、「電気制御を独力で組める人」は少ない。需給の差がそのまま出ています。九州はこの傾向がさらに強い、というのが僕の体感です。
2. 九州の地の利 — なぜ制御・生産技術が品薄なのか
九州の設計・制御人材の相場には、いまはっきりした追い風があります。設備投資が積み上がっている土地だからです。熊本圏の大型半導体投資、北部九州の自動車生産、それに付随する装置・部品メーカーの新設・増設。新しいラインを作る限り、装置を設計する人と、動かす制御を組む人が必要になります。
2-1 半導体投資が制御・生産技術を吸い上げる。半導体の製造は装置産業です。新しい工場が立ち上がるほど、設備を据え付け、動かし、止めないための制御設計・生産技術の人材が要る。九州ではいま、この需要が製造業全体の制御人材を吸い上げていて、制御・生産技術は慢性的な品薄になっています。品薄は、そのまま値段の付きやすさです。
2-2 メーカーの階層が深い。完成車・大手部品・中堅・装置メーカー・設計事務所。同じスキルでも所属先の階層で待遇が変わるため、「スキルを変えずに所属を変える」だけで年収が動く余地があります。ただしここには罠もあります。同じ段のまま横に移るだけでは、構造的には上がらない。次の章で説明します。
3. 上がる転職の3つの型
率直に言うと、設計・制御の転職で年収が上がらないパターンは決まっています。階段の同じ段のまま、横に移るだけの転職です。詳細設計者が別の会社で詳細設計をする。PLC改造の人が別の工場でPLC改造をする。これでは需給の波で多少上下するだけで、構造的には変わりません。上がる転職には、はっきり型があります。
型1:段を上げる転職。詳細設計→構想設計へ、改造→新規設計へ。ポイントは、いまの職場で「一段上の仕事を部分的にでも経験してから」動くことです。実績ゼロで段を上げる転職は通りにくい。半年でいいので、上の段の仕事を拾ってから出る。型2:品薄の交差点に立つ転職。機械も分かる制御屋、制御も分かる機械屋、設計も分かる生産技術。2つの領域の交差点は常に品薄で、九州のいまの局面ではとりわけ値が付きます。型3:成長分野に段ごと移る転職。同じ装置設計でも、半導体製造装置や電池関連設備の文脈が付くと値段が変わります。九州の半導体の記事もあわせて見てください。この3型のどれかに乗れているか——転職の前に、自分の計画を照らしてみてください。
3-1 3型は組み合わせると効く。この3つは択一ではありません。むしろ重ねたときに一番効きます。たとえば「保全で制御に触れてきた人(交差点の素地)が、半導体の設備保全に段ごと移り(成長分野)、そこで制御設計の下段を任される(段を上げる)」——こういう積み方をした方は、数年で年収の景色が変わることがあります。逆に、3つのどれにも当たらない「同じ段・同じ分野・同じ役割」の横移動は、正直に言って労力のわりに実りが薄い。動く前に、自分の一手がどの型に当たるのかを一度言葉にしてみてください。
3-2 「今の会社で上がる」も立派な選択。誤解がないように申し上げると、上がる手段は転職だけではありません。九州のように設備投資が続く局面では、いまの職場でも新規ラインの立ち上げ経験を積める可能性があります。社内で段を上げてから、必要なら市場に出る。これがいちばん低リスクな順番です。転職を先に決めてしまわず、「まず今の職場で一段上の経験を拾えないか」から考えるのを、僕はいつもおすすめしています。
4. 現場出身から設計・制御へ — 入口は実在する
「自分はオペレーター・保全出身だが、設計側に行けるのか」という質問も、九州の現場ではよく受けます。答えは「入口は実在する。ただし入口の位置を間違えないこと」です。
4-1 保全→電気制御が王道。電気制御への入口はとても太くて、保全からの転身が王道です。設備保全でPLCに触れてきた方は、制御設計の下段にそのまま接続できます。第二種電気工事士+PLCの実務経験は、この市場で通用する立派な組み合わせです。前章で触れた通り九州は制御が品薄なので、この入口はいま特に開いています。
4-2 治具改善→機械設計。現場から機械設計への最短入口は、治具・設備改善の経験です。現場で治具を考えた、簡単な図面を描いた、設備トラブルの対策を形にした——この経験に2D/3D CADの学習を足すと、装置メーカーや設計事務所の「現場が分かる設計者候補」の枠に入れます。誤解がないように申し上げると、40代から完全未経験でCADを覚えて設計者になる道はかなり険しい。入口が実在するのは「現場で設計・制御に隣接する経験を積んできた人」です。いま現場にいる方は、転職の前にいまの職場で隣接経験を拾えないかを先に考えてください。それが一番安い投資です。
5. 面接での値段の上げ方 — 数字で語る
最後に、面接の話をします。設計・制御の面接で値段を決めるのは、資格の列挙ではなく実績の数字です。「設計ができます」ではなく「◯◯装置の詳細設計を年間◯件、構想から任された案件が◯件」。「PLCができます」ではなく「◯◯ラインの新規立ち上げで制御盤◯面、タッチパネル画面設計まで担当」。数字が入った瞬間、面接官はあなたを階段のどの段に置くべきか判断できます。逆に数字がないと、安全側に低く見積もられる。値切られるのではなく、値付けに失敗している——このパターンが本当に多いのです。今日できることとして、過去に関わった案件を3件、「装置名・自分の担当範囲・件数」の形で紙に書き出してみてください。所要10分。これが面接であなたの段を証明する材料になります。
5-1 資格は「段の証明」にはなるが「段そのもの」ではない。第二種電気工事士、機械保全技能士、CAD利用技術者——こうした資格は、あなたが最低限の土台を持っていることを示す便利な看板です。ただ、面接官が本当に知りたいのは「その資格で何を作ったか」です。資格だけを並べて実績の数字が薄いと、「勉強はしているが、任せた実績は不明」と受け取られる。逆に、資格が一枚もなくても、任された案件の数字が具体的なら、上の段に置いてもらえることがあります。資格は数字を補強する脇役だと考えて、主役はあくまで実績に置いてください。
5-2 現年収を「段」で説明できると強い。面接では現年収を聞かれます。このとき「◯◯万円です」と数字だけ答えるより、「いまは詳細設計まで独力で、構想の一部を任され始めた段階なので◯◯万円です」と、自分の段とセットで説明できると、次の会社もあなたを一段上で値付けする判断がしやすくなる。自分の現在地を言葉にできる人は、それだけで一段高く見えるものです。
具体的な段の上り方を、ひとつ実例の型で置いておきます。設備保全で入り、日々の故障対応のなかでラダー(PLCのプログラム)の改造に手を出しはじめる。最初は先輩の書いた回路を読むだけでも、半年もすれば「ここのタイマーを一段変えれば段取りが速くなる」と言えるようになる。この状態を、次の転職で「保全経験+PLC改造の実務」として値札に書き直すと、電気制御の求人で一段上のレンジに乗れます。機械設計側なら、治具の改善提案を図面に起こした実績が同じ役割を果たします。大事なのは、いまの職場で「図面に一歩近い仕事」を意識して拾っておくこと。転職はその拾った経験を換金する場であって、ゼロから何かを証明する場ではありません。段は、移る前に現職で半分上っておくのが、いちばん確実で、いちばん安全な上り方です。
(結論)職種名ではなく、階段の段を上げる
まとめます。①年収は職種名ではなく「階段の段」で決まる。②九州は半導体・自動車の設備投資が続く限り、制御・生産技術が品薄で値が付きやすい土地。③上がる転職は「段を上げる・交差点に立つ・成長分野に移る」の3型。④現場出身の入口は保全(→電気制御)と治具改善(→機械設計)。⑤面接では数字で値付けする。
図面もラダーも、書ける人の頭の中身は外から見えません。だからこそ、自分の段を正しく言葉と数字にした人から順に、正しい値段がつきます。ここに書いた金額はあくまで独自ガイドの目安であって、あなたの値段を決めるのは、最終的にはあなたが語る数字です。
皆さんいかがでしたでしょうか。まずは15問の診断で、自分がどの段にいて、どの型が合うのかを確かめてみてください。では今日もがんばりましょう。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。